ドアのための家
House for door大きなドアが日常を書き換える。ドアを開けるたびに風景は日々刻々とうつり変わる。悲しい時には悲しい空間が、嬉しい時には嬉しい空間が浮かび上がる。
Everyday life is rewritten by a big door. Every time you open the door, something new comes in and out, and the scenery changes day by day. When you are sad, you will find a sad space, and when you are happy, you will find a happy space.
ドアのための家
01大きなドアが場所をつくる
三人の家族が住む家を設計した。この住宅には壁一面を占める大きなドアがあり、内部と外部を結びつけている。ドアは、開けられたらいずれ閉まらなくてはならず、閉められたらいずれ開けられなくてはならない。ドアはそのためだけに存在している。開かれたドアは未知なるものを取り入れ、閉じられたドアは既知なるものを締め出す。住人たちは、ドアを幾度となく開け閉めするうちに、生きるための場所を発見してゆく。ドアを開ける体験は、日常を美しく現象させる。
02鏡が多様な空間を現象させる
ドアの裏側には鏡が貼られ、様々な風景をうつし出す。ドアが開かれると、住宅の内部には鏡に反射した緑の風景が侵入してくる。ドアが閉じられると、住宅の内部には日々の生活の風景が拡がってゆく。ドアの鏡は開く角度によって風景を刻々と変えるから、想定された風景をうつすだけではなく、想像もつかないほどに多様な空間を現象させる。多様な空間が現象すると同時に、住人たちは予測不可能な出来事に遭遇して、自分なりの空間を見つけるに違いない。嬉しい時には嬉しい空間が、悲しい時には悲しい空間が現象するだろう。ドアが日常を書き出して、そして、日常を消していく。
03ドアの外側に広がるテラス
ドアの外側には、豊かな緑を感じられる巨大なテラスがある。テラスは、反射率の高い黒タイルの基壇、ふわりと載せられたアーチ型の屋根、収納や展示ができる浮かんだ棚、などで丁寧に構成されている。これらの構成要素は、大きなドアの存在を引き立てながら、空間を整える役割がある。大きなドアの前では、あらゆる人はドアに対峙しなければならず、《ドア-前-存在》となることを強要される。ドアの前に投げだされることによって、日常は外側から眺められ、過ぎゆく日々は再考される。それは、生きることを考えることである。
04ドアの内側に広がる空間
住宅の内側には、ドアに向かうように空間が並べられる。一階部分には、水平方向に伸びるダイニングテーブルと垂直方向に伸びる柱があり、空間にリズムをもたらす。キッチンから開かれたドアを見るならば、室内とテラスと緑が一続きに繋がって見えるだろう。二階部分には、吹き抜けに対して滑らかな曲線を描くデスクがあり、鏡をとおして下階とのつながりが生まれる。この住宅では、ドアを基点にあらゆる構成要素が配置され、ドアを開けるという体験によって、あらゆる構成要素は生き生きと歌いはじめるだろう。
05ドアを開け閉めするという体験
ドアには、ドアを開け閉めするという体験が付随する。ドアは、住人たちが自らの身体で開け閉めされるのであり、その体験を通して、住人たちは空間を自分ごとにしてゆく。バラバラに配置された構成要素は、住人がドアを開け閉めするという体験によって、まとまった秩序を与えられてゆく。ドアを開け閉めするという体験が空間にそのまま反映され、空間が現われては消えてゆく。これにより、普段の生活で目を向けなかった出来事に遭遇し、まだ気づかぬものが見出されてゆく。日常が美しく浮かびあがる万華鏡のような住宅は、少しだけ世界を変様させる。
Works > House for door
期間 2020年8月
種類 建築_住宅
担当 山地大樹
date Aug.2020
type Architecture_House
person Daiki Yamaji
- Books ▷ House for door
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