境界のための家
House for border対立する領域の境界線のうえに建つ家。建築によって生み出された権力のない空っぽが人と愛を繋ぐ。
This house stands on the border between two conflicting areas. The emptiness revealed by objects breaks down boundaries and connects people and love..
境界のための家
01ボスニア・ヘルツェゴビナの境界線
ボスニア・ヘルツェゴビナの二つの自治区の境界線の上に住宅を計画した。山のなかにある小さな住宅である。この住宅は、SOBE(バルカン半島でよく見られる空き部屋を貸し出す形式)と呼ばれる形式のもので、一人の住まい手が部屋を貸しながら住まうことになる。敷地はボスニア・ヘルツェゴビナの首都であるサラエボからすぐのところを想定している。この国は歴史的な背景から「スルプスカ共和国」と「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」という二つの自治共和国に分割されているのだが、この分断に対して建築ができることを考えてみたい。
02境界に対して建築ができること
スルプスカ共和国とボスニア・ヘルツェゴビナ連邦。二つの自治共和国のあいだには、パスポートの確認といった物理的な境界はなく、行き来するのはとても簡単かのように思える。しかしながら、内戦の勃発によって見えない心の壁が国を分けてしまった結果、境界を越えることは困難な仕事である。目に見えない境界は目に見える境界よりも強く恐ろしい。建築にできることはあるだろうか。しばらく考えて、建築にできることは「場を与えること」ではなく「場をつくらないこと」ではないかと考えた。誰もが権力から逃れられる無意味な場所を求めている。こうした場所をいかに設計できるというのだろう。
03空っぽをつくらないこと
この住宅は四つのバラバラのオブジェクトで構成されている。すらりと伸びる黒い暖炉がオブジェクトを貫いて構造を支えている。住宅の真ん中にはオブジェクトの隙間に生まれた《空っぽ》があるのが重要である。この場所はつくられたものではなく、ただ囲まれているだけであり、手付かずのまま放置されている。したがって権力や意味を持たない。《空っぽ》は、独立した四つのオブジェクトの特徴を否定することなく、ただそれらに囲まれているという特徴の不在によって、逆説的に各々の多様性を肯定して取りまとめる。《空っぽ》は空っぽ以外の何ものでもない。
04空っぽに一歩を踏み出すこと
こうして、《空っぽ》が境界線のうえに現われた。《空っぽ》はどちらの国にも属してないし、住まい手に所有されるわけでもなく、建築家に与えられたわけでもない。権力から逃れた誰のものでもない場所は、生まれたところや皮膚や目の色、歴史や肩書きなどを乗り越えて、愛を育む場所になるに違いない。愛を求めた人がこの空っぽに一歩を踏み出し、そこに一輪の愛の花が咲くことを期待したい。愛とは、空っぽの空間に流れ込んだ一輪の花のようなものなのだと思う。愛とは、どこかから与えられるものではなく、何もないところから育まれものだと信じたい。愛は人の歩みによってつくられるのだから。
Works > House for border
期間 2020年4月
種類 建築_住宅
担当 山地大樹
date Apr.2020
type Architecture_House
person Daiki Yamaji
- Comng soon
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Works ▷ House for border