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原広司『田崎美術館』/ 建築メモ

文章・写真 山地大樹
田崎美術館の外観と雲型の屋根
Karuizawa . 2021.08.21

- 設計者は原広司である。

- 1986年の日本建築学会賞。

- 空間が帯状に連結されている。

- 自然光が壁に当たることで、遺跡のような空間性が生まれている。

- 回廊を通して、中庭の向こう側の空間へ行ける。

- 多柱室のような空間性がある。

- 不思議なことに千住博美術館と同じような空間の質を感じる。動くたびに風景が変化する。移動することが前提とされているからだろうか。

- ガラスの反射と、ガラスに刻まれた紋様が風景に溶け込む。

- 部屋の中に2階のような空間があり、先ほどまでいた場所を俯瞰で見ることができる。

- トイレ内部のトップライトが美しかった。

- 型の紋様や斜めの線などの散りばめられた記号が意識の中で統一される感覚がある。

- 千住博美術館から遠くないので、建築好きの方はぜひ。

- 公式ホームページは田崎美術館からどうぞ。

田崎美術館の建築の概要

つまり、面というより帯状の空間の重ね合わせである。日本の伝統的空間形成法では、強い境界をつくらないので、こうした空間図式があちこちで現象する。上記二例が、二種類の多層図式の典型であると言えば、必ず異論がでるだろう。建築であるかぎり、つねに空間的なオーバーレイには違いないのである。ただ、一般的な空間のつくり方として、〈立面の重ね合わせ〉と〈領域の重ね合わせ〉が、空間形成上しての手法としてありそうである。
原広司『住居に都市を埋蔵する』 | p41
1986年の日本建築学会賞の作品である。古い建物なので詳細の情報があまり見つからないが、分かる範囲で説明する。設計者の原広司は現象学を建築に持ち込んだ。特に『空間〈機能から様相へ〉』や『住居に都市を埋蔵する』という書物が有名である。私の理解では世界を現象学的に捉えた時、バラバラなものは統一体として意識の中に現象する。現象学を建築に落とし込む時に出てきた概念が「帯状の空間の重ね合わせ」であり、層として並べられた空間が重なり、意識の中で統一体として現象する。そうして現象した統一体は、凍結された風景ではなく、日々刻々と移り変わる動的な風景となる。上記の引用は『田崎美術館』を直接的に説明した文章ではないが、『田崎美術館』の建築を説明する文章として分かりやすい。この引用での「上記二例」とは「イスラム建築」と「日本の伝統的な風景」である。「イスラム建築」の柱とアーチの重ね合わせが多層的に連なり、「日本の伝統的な風景」では縁側や、濡れ縁、庭、垣根などが多層的に連なる。例えば、浮世絵などの版画は平面が重ね合わせの統一体であろう。例えば、メロディというのはその場その場の音の流れの統一体であろう。そうした変幻する統一体をつくりあげるために、〈立面の重ね合わせ〉と〈領域の重ね合わせ〉の手法が『田崎美術館』にも使われている。〈立面の重ね合わせ〉については、建築そのものの立面はもちろんのこと、ガラス面の反射した風景すらも立面として重ね合わさる。〈領域の重ね合わせ〉については、天井高の操作や普通より高さのある梁などによって領域が分けられて重ね合わさる。トップライトやガラス面の使い方という部分的なところから、庭を介して向こう側にゆくという平面の操作も含め、重ね合わせがかなり意識されている。同じ場所を眺めていると、風景が刻々と移り変わってゆく。その移り変わりは、当たり前のものではなく、設計者によって丁寧に誇張されたものだろう。その重ね合わせの効果ゆえ、かなりの速さで風景は変幻し、万華鏡のように様々な様相が現れる。千住博美術館からそう遠くないので、建築好きの方はぜひ訪問してみてください。公式ホームページは田崎美術館からどうぞ。以下写真です。

田崎美術館の建築の写真

田崎美術館の内部のアーチ
アーチにくり抜かれた梁が並ぶ
田崎美術館の内部の廊下
内部の廊下は視線が抜ける
田崎美術館の柱と反射するガラス
多層に重なる風景
田崎美術館の雲型のモチーフ
雲型の模様が散りばめられる
田崎美術館のトップライトと梁
何層にも重なるトップライト
田崎美術館の天井の模様と影
天井の段差に影が生まれる
田崎美術館の反射する風景と中庭
反射した風景と中庭のオーバーレイ
田崎美術館のトップライトの光と影
トップライトが影をつくる
田崎美術館の回廊と花の反射
回廊が反射して伸びて見える
田崎美術館の柱と風景
天井高によって領域が分割されている
田崎美術館の雲型の天井とギザギザのガラス面
天井が低くなりガラス面が連なる
田崎美術館の柱と領域の関係
柱によって領域が曖昧に規定される
田崎美術館のガラス面の連続
ギザギザのガラス面に風景が重なる
田崎美術館のトップライトと梁の重なり
トップライトが多層化され光に厚みが生まれる
田崎美術館のアーチと帯状の空間
帯状の空間が重なり合う(著作権の関係で絵画はぼかしています)
田崎美術館のトップライトと照明と梁
トップライトと隅に浮き出る梁
田崎美術館の風景の反射するガラスと中庭
ガラスには風景が反射して重なりあう
田崎美術館の俯瞰的視点
高いところから俯瞰できるようになっている
田崎美術館のガラスの模様
ガラスには丁寧に模様が描かれている
田崎美術館のアルコーブのような空間
アルコーブのような空間が重なる(著作権の関係で絵画はぼかしています)
田崎美術館の柱と奥
奥に進むにつれて天井高が低くなる(著作権の関係で絵画はぼかしています)
田崎美術館の梁とトップライト
複雑に構成された梁
田崎美術館の反射する外観
雲型の屋根がガラスに反射する
田崎美術館の複雑な天井部分
複雑な形態が重なりあう
田崎美術館の階段
上へと向かう階段
田崎美術館の重なりあう空間
空間の重なりあい(著作権の関係で絵画はぼかしています)
田崎美術館の帯状に重なりあう空間
様々な記号が散りばめられて重なりあう(著作権の関係で絵画はぼかしています)
田崎美術館のギャラリー部分
アーチにくり抜かれた梁が多層的に重なる(著作権の関係で絵画はぼかしています)
山地大樹 / Daiki Yamaji
memo / 2021
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